●PAにおける「グルーヴ感」についての考察
※これは私的な考察であり、今後の知識/技術/経験により随時、加筆・訂正していきます。
以前から、自分にとっては気になるテーマであった、「PAとグルーヴ感の関係」について書いてみたいと思います。
何故、このようなテーマを取り上げたかというと、私自身、メイン楽器はベースですが、メトロノームを使用した基礎練習においてさえ、前ノリで弾くか後ろノリで弾くかで、グルーヴ感が大きく変化する事を実感するからである。
PAオペレートにおいて、このグルーヴ感というモノを演奏者と同じレベルで意識する必要はないのかもしれませんが、演奏者サイドにとっては重要だと思うので、考えていきたいと思います。
かつてDTM販売員の時代、DAWをトラックメイキングで使用したいと言って購入されたお客様の大抵が、生録の際に大概つまずくのが、ソフトウェアモニタリングで使用していた為、遅延(レイテンシー)が生じて録音しづらいというモノでした。
実際に遅延がどれくらいだったのかは定かではないですが、果たして演奏者はどれくらいの遅延なら対応出来るのでしょうか?
興味が湧いてきたので、自分自身でボーカル、ベース、ギター、エレピをヘッドフォンでモニタリングして演奏チェックしてみました。
確かに、6msで演奏可能ですが、若干遅延を感じます。8msでは自分には厳しいと感じました。4msでは合わせれば問題なく演奏出来る印象でした。
単純計算なら、bpm=120で192分まで演奏者が認識可能であれば、192分が10ms程度であるので、前後5ms程度が揺れの許容範囲となります。(128分までなら15.6ms程度で揺れは7.8ms程度)
今回は、bpm=140の128分、揺れ6ms程度を基準としてみます。
話戻って5msという値ですが、距離で表すと、1.7m程度になります。
これは、ボーカリストの立奏時のモニターの距離とほぼ同じです。
つまり、ライブにおいて、ボーカルは常に5msの遅延とともに歌っているという事になります。
しかし、客席で聴いていてもそれ程演奏のズレを感じません。
何故、遅延があるのに演奏可能なのでしょうか?
それは、演奏者は遅延を感じ取った分、先読みして演奏するからです。
演奏者は生演奏もしくはヘッドフォンでモニタリングしない以上、遅延と常に向き合って練習しています。そのため、上手くなればなるほど遅延に対応出来るようになります。
逆を言えば初心者程、遅延に対応出来ないと考えられます。
基本モニターがないオーケストラにおいて、指揮者が感じている音のバランスと演奏者の位置でのバランスは、違って聴こえているのかもしれません。つまり演奏者の位置ではズレて聴こえているのかもしれませんが、指揮者の位置では演奏は揃っているという事です。
ではバンドにおける指揮者をドラマーとし、キック、スネア、ハイハットの三点をモニターに返して、それを基に各演奏者が合わせていく形で考えてみます。
環境は全て、フットモニターを使用する事にします。
まず、ベーシストですが、立奏だと、1.7m=5msの遅延に合わせて演奏します。ベースアンプがなければ、自分の演奏もモニターから返るので同じく5msの遅延に合わせて演奏するでしょう。
アンプがある場合は、大抵ベースモニターにベースは返さないので、注意が必要です。
モニターと等距離にベースアンプを置かなければ、その分フロントスピーカー及び、他演奏者のモニターにズレが生じるという事です。
ギター、キーボードも同様であり、ボーカルについても、立奏であれば1.7m=5msの考えで問題ないと思います。
注意したいのが、ドラマーです。自分の音をドラムモニターに返さない場合は、モニターの距離は、キック、スネア、ハイハットと同じ距離に設置するのが理想ではないでしょうか?
返す場合は、他演奏者同様、遅延に合わせて演奏する形になりますが、ドラムは生音が大きいため、遅延が大きいとダブリング効果が出てきてしまいます。
後、マイクの距離等の遅延は若干微調整が必要かもしれません。
こうして、全ての演奏が揃う事によって、PAサイドによるグルーヴのズレは改善されます。
そして演奏者サイドに、グルーヴ感の調整を委ねる事によって、よりよいパフォーマンスが生まれるのではないでしょうか?
私的に、この概念の最たるパフォーマンスが、「東京事変」のライブではないかと思います。
演奏者全てが、イヤモニを使用する事により、遅延のズレをなくし、更にモニターに音が被らないよう、アンプ類を、バックステージに設置しています(ドラムのみ生音が大きく、被ってしまいますが...)。
以上、「PAとグルーヴ感の関係」についてざっと書いてみました。
出音の善し悪しはもちろん大事ですが、ジャンルによってはグルーヴ感もかなり演奏の出来、しいてはPAに影響するという事を、これからも自分なりに追求していきたいと思います。